寝かしつけに学ぶ指圧の心得
【寝かしつけに学ぶ指圧の心得】(2023.7.23指圧私塾テキストより)
私が仕事から帰宅するのは、おおよそ妻が娘の“寝かしつけ”をしている時間です。
妻に言わせると、娘が“もう寝そうだな”という大切なタイミングでいつも私が帰宅するため、それまでの苦労が水の泡になると、度々叱られてしまいます。
子どもは起きている間はずっと陽で、寝てしまうと朝、目覚めるまでずっと陰。
陰と陽がはっきりしています。
したがって、子どもの心身が陽から陰に切り替わる“寝かしつけ”という行為は一日の中でも重大な儀式であると言えます。
子守歌や、本を読んで聞かせたり。やがて子どもの心はざわついた現実世界から、物語や空想の世界の内なる世界を彷徨います。
それも済んでしまうと、いよいよ部屋を暗くして、じっと見守るだけ。
何も話さない、何もしない。寝室はまたたく間に陰の空気感に包まれます。
それはまるで魔法にかかったような神聖な時間。
耳を澄ませば、それまで聞こえなかった虫の声や散歩する誰かの足音。
そんな魔法のような時間の中で、親子は言葉を交わさずとも心で、今日の出来事だったり、少し先の旅行の楽しみであったりを愛情深く共感し合うのです。
そんなかけがえのない時間を過ごしている時に、仕事から帰った私がドタドタと陽の雰囲気を持ち込んでしまえば、それはさぞかし不快に感じるだろうと、妻のクレームに大いに納得するのです。
さて、そんな寝かしつけについて、私は思います。
“指圧”と一緒だなあと。
私達は、いつも患者様のお役に立ちたいと願っています。
そう願うばかりに、新しい勉強会へ参加しては新しい技術を学んだり、ゴッドハンドと言われる施術を実際体験しに出かけたり。学びは楽しいものです。
陰陽でいえば、前向きな陽の氣でしょう。
でも、ふと立ち止まって考えてみることがあります。
これって本当に患者様が望んでいることかな、と。
陽の氣をそのまま施術に持ち込むことは、時に相手の発する心(陰)のサインを見逃します。
患者様が求めているのは、決して勉強会で学んだ新しい技術を早速施すことではなく、まずは私達に親身になってもらうことではないでしょうか。
指圧は、陰の空気感さえ作ってしまえば、寝かしつけの時に聞こえる小さな虫の声や遠くの足音のように、それまで気付けなかった患者様のことを発見し、言葉を交わさずとも痛み、辛い気持ちを知ることができる妙技です。
患者様の心が、ちゃんと見てくれている、許されている、認められている、そんな安らぎの気持ちに包まれた時に初めて、身体はいい方向へと向かい始めるのです。
うめむら指圧 梅村高史
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