鍼灸学校時代のお話
「うーん、何が原因かな。脾が弱ってるかな。」
その教員の先生の困っているお顔を今でも鮮明に覚えています。
私はその時、思いました。あんなに偉いベテランの先生でもこのように悩むのだ、と。
これは私が鍼灸学校の学生時代の時のお話。
私が通っていた中和医療専門学校というところには付属治療所があり、学生は3年生になるとそこで臨床実習を行います。
その偉いベテランの先生とは、そこの所長の教員の先生のこと。
鍼の経絡治療が専門の先生でした。
クセの強い先生でしたが、知識や経験が豊富で、質問をするとこちらが納得するまで付き合って下さるような人情深さがあり、学生達にだけでなく、他の教員の先生達からも慕われるような先生でした。
私も学生時代、その先生にお世話になりました。
そして実習の時、冒頭の言葉を聞いたのです。
私は学生時代、希望を胸に何でも治せるすごい治療家になることを夢みていました。
頭痛の治療。
めまい耳鳴り難聴の治療。
歯痛の治療。
腹痛の治療。
便秘、下痢の治療。
円形脱毛症の治療。
更年期障害の治療。
五十肩の治療。
腰痛、膝痛の治療。
など。
これら教科書に書いてあるものをみんな覚えて、患者様をどんどん助けていくヒーローになることを思い描いていたのです。
あれから何年かが経過しました。
たくさんの患者様と向き合うことができました。
今はこう思うのです。
治療には、これをすれば絶対に治るという万能な必勝攻略法などないのだ、と。
患者様10人いれば10人の人生があり、それを背景に症状も非常に多岐に渡ります。
つまり、治療は冒頭の先生のつぶやきのように、大いに悩んでいいのだ、と。
孫子の兵法にはこう書かれています。
“水の行は高きを避けて低きにおもむく。
兵の形は実を避けて虚を撃つ。”
水はゴツゴツした岩を避け、低いところに流れようとする。兵もこのように形を持たずに常に相手に合わせて戦法を変化させることが大切である、と説いています。
私達の治療法というものがあったとして、それに患者様を合わせていくのではなく、患者様1人1人に合わせて私達の治療法を変化させていく。
何が原因かな。
脾が弱ってるのかな。
肺がやられちゃってるかな。
肝にきちゃってるなあ。
腎虚なのは間違いないけど。
治療はこのやり方で合ってるかな。
それとも、、、
こうして悩むことは恥ずかしいことではなく、
ましてヒーローになる必要は全くないなあと。
うめむら指圧ではこれからも患者様のためにたくさんたくさん悩んでいこうと思います。
名古屋伝統指圧普及会ははのて代表
うめむら指圧 梅村高史
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