ある風の冷たい日のこと
私が指圧を学び始め、なんとなく指圧の良さ、感覚が掴めて来たある日のこと。
それは風の冷たい冬の日でした。
寒空の下、名古屋の栄のテレビ塔付近を一人で歩いていると、おばあさんが自転車で“バターン!”と派手に転んでしまったのを目の当たりにしました。
おばあさんの歳の頃は80代くらいだったでしょうか。
そこへ声を掛けたのは、私ともう一人、主婦らしき女性でした。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫、ちょっとふらついちゃって」とおばあさん。
大事には至らなかったことを確認して主婦らしき女性はその場を立ち去りました。
私は少し時間があったのでその場に残り、聞いてみました。
「今、痛いとこある?よかったら教えて。」
おばあさんは自身の膝を指で差し、示してくれたのです。
私はとっさに自分の手のひらをそこに当てました。
するとおばあさんはこう言ったのです。
「おにいさんの手はあったかいね。なんだかすーっととしてきた。こんなことがすごく気持ちがいいんだね。ありがとう。」
時間にすればほんの5秒くらいのことだったのかもしれません。
しかし、その時、一瞬でしたが本当にうっとりと幸せそうなお顔をされたのです。
なぜ、私がそのようなことをしたのか、わかりません。
でも、人が人を思いやる時、自然とこういった本能行動が昔から行われてきたのでしょう。
あれから何年かが経ち、私は国家資格を取得。指圧を生業とし、現在は様々な難しい疾患と対峙するようになりました。
治療で何かの壁にぶつかった時。治療を難しく考え過ぎている時。
時々、このおばあさんの笑顔を思い出してみるようにしています。
名古屋伝統指圧普及会ははのて代表
うめむら指圧 梅村高史
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